「新リース会計基準」の適用が迫り、経理担当者として「何がどう変わるのか?」「実務への影響は?」「いつから、何を準備すればいいのか?」といった疑問や不安をお持ちではないでしょうか。本記事を読めば、新リース会計基準の概要と従来基準との違い、財務諸表へのインパクト、そして今すぐ着手すべき実務対応の具体的なステップまで、担当者が知るべき全ての情報を網羅的に理解できます。結論から言うと、新リース会計基準の最大の変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースを含む、原則すべてのリース契約が資産・負債として貸借対照表に計上(オンバランス化)されることです。これにより、企業の財務状況の見え方が大きく変わるため、全リース契約の洗い出しから会計システムの対応まで、計画的かつ早期の準備が不可欠となります。この記事では、会計処理の具体的な流れから適用が免除される例外規定、よくある質問までをわかりやすく解説し、貴社のスムーズな移行をサポートします。
新リース会計基準とは 概要をわかりやすく解説
2024年以降、日本の会計実務に大きな変革をもたらす「新リース会計基準」の導入が予定されています。この変更は、特に多くのリース契約を抱える企業の経理担当者にとって、決して無視できない重要なテーマです。これまで費用処理(オフバランス)が可能だった多くのリース契約が、資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上(オンバランス)されることになります。本章では、この新リース会計基準の基本的な概要、導入の背景、そしていつから適用されるのかについて、初心者にも分かりやすく解説します。
そもそもリース会計基準とは
リース会計基準とは、企業がコピー機や社用車、不動産などをリース契約で利用する際の会計処理方法を定めたルールのことです。リース取引とは、特定の資産を一定期間にわたって使用する権利を、対価を支払うことで得る契約を指します。
従来の会計基準では、リース取引を大きく「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分類していました。ファイナンス・リースは、実質的に資産を購入したのと経済的実態が変わらない取引と見なされ、資産と負債を貸借対照表に計上(オンバランス)する必要がありました。一方で、オペレーティング・リースは、単なる賃貸借取引と見なされ、支払うリース料を費用として損益計算書(P/L)で処理するだけで済みました(オフバランス)。この分類により、多くの企業がオペレーティング・リースを活用して、貸借対照表のスリム化を図ってきました。
新リース会計基準が導入される背景 IFRS第16号との関連
今回、新リース会計基準が導入される最大の背景には、会計基準の国際的な統一(コンバージェンス)の流れがあります。特に、国際財務報告基準(IFRS)の「IFRS第16号」や米国会計基準との整合性を図ることが大きな目的です。
従来の日本の基準では、多くのリース契約がオペレーティング・リースとしてオフバランス処理されていました。しかし、投資家の視点から見ると、これは企業が抱える実質的な負債を貸借対照表から読み取ることができず、企業の財政状態を正確に評価する上での課題となっていました。例えば、同じような事業を営む2社があっても、設備を自己所有する会社とリースで調達する会社とでは、財務諸表の見え方が大きく異なり、企業間の比較可能性が損なわれていたのです。新リース会計基準は、こうした問題を解消し、財務報告の透明性と国際的な比較可能性を高めることを目指して開発されました。
いつから適用?新リース会計基準の適用時期
新リース会計基準の適用時期は、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した公開草案によると、原則適用と早期適用が認められています。自社がいつから対応すべきか、正確に把握しておくことが重要です。
| 適用方法 | 適用開始時期 |
|---|---|
| 原則適用 | 2026年4月1日以後に開始する事業年度の期首から |
| 早期適用 | 2024年4月1日以後に開始する事業年度の期首から |
例えば、3月決算の企業の場合、原則として2027年3月期の期首(2026年4月1日)から適用が開始されます。ただし、準備が整った企業は、2025年3月期の期首(2024年4月1日)から前倒しで適用することも可能です。適用開始までにはまだ時間がありますが、対象となる契約の洗い出しやシステム対応など、準備には相応の期間を要するため、早期からの情報収集と計画的な準備が求められます。
従来基準との違いは?新リース会計基準の3つの主要な変更点
2026年4月1日以後開始する事業年度から適用が予定されている新リース会計基準。この変更は、特にリースを利用する「借手側」の経理実務に大きな影響を与えます。一体、これまでのルールと何が、どのように変わるのでしょうか。ここでは、従来基準との違いを3つの主要な変更点に絞って、具体的に解説します。
すべてのリースを原則資産計上 オンバランス化が最大の違い
新リース会計基準における最も大きな変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースも、原則として貸借対照表(B/S)に資産・負債として計上する「オンバランス化」が求められることです。
従来基準では、リース契約を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2種類に分類していました。ファイナンス・リースは実質的な資産の購入と見なされ、資産・負債を計上(オンバランス)していましたが、オペレーティング・リースは単なる賃貸借取引として、支払リース料を費用計上するのみで、B/Sには記載されませんでした(オフバランス)。
しかし新基準では、この区分が撤廃され、短期リースや少額リースなどの一部の例外を除き、すべてのリース契約について、借手は「使用権資産」と「リース負債」をB/Sに計上する必要があります。これにより、投資家などの利害関係者が、企業の財務状況をより正確に把握できるようになります。
| リース取引の種類 | 従来基準 | 新リース会計基準 |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | オンバランス | オンバランス(考え方は維持) |
| オペレーティング・リース | オフバランス(費用処理のみ) | 原則オンバランス |
このオンバランス化により、企業の総資産と総負債が同時に増加するため、自己資本比率やROA(総資産利益率)といった財務指標に影響が出る可能性があります。
借手側の会計処理の一本化
オンバランス化に伴い、借手側の会計処理の方法も大きく変わります。従来はファイナンス・リースとオペレーティング・リースで会計処理が異なっていましたが、新基準では原則としてすべてのリースを単一のモデルで会計処理することになります。
具体的には、B/Sに計上した「使用権資産」については減価償却を行い、「リース負債」については支払利息を計上するという、従来のファイナンス・リースに類似した会計処理に一本化されます。これにより、損益計算書(P/L)上では、これまで「支払リース料」として計上されていたものが、「減価償却費」と「支払利息」に分けて計上されることになります。
| 項目 | 従来基準 | 新リース会計基準 |
|---|---|---|
| 会計処理モデル | ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの2種類に分類し、それぞれ異なる処理 | 原則として単一モデルに一本化 |
| 損益計算書(P/L)への計上 | 【ファイナンス】減価償却費+支払利息 【オペレーティング】支払リース料 | 減価償却費+支払利息 |
この変更により、これまでオペレーティング・リースに分類していた契約についても、減価償却や利息計算といった複雑な処理が必要となり、経理担当者の実務負担が増加することが予想されます。
貸手側の会計処理は従来から大きな変更なし
今回の新リース会計基準の変更は、主にリースを利用する「借手側」を対象としています。一方で、リースサービスを提供する「貸手側」(リース会社など)の会計処理については、従来基準の枠組みが基本的に維持され、大きな変更はありません。
貸手側は、引き続きリース契約を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、それぞれに応じた会計処理を行います。したがって、貸手側の経理実務においては、今回の基準変更による直接的な影響は限定的と言えるでしょう。
ただし、借手側のニーズの変化により、契約内容の見直しや情報提供の依頼が増える可能性は考えられます。借手側の変更点を理解し、適切に対応できる準備をしておくことが望ましいでしょう。
新リース会計基準が実務に与える影響
新リース会計基準の導入は、単に会計処理の方法が変わるだけではありません。企業の財務諸表や経営指標、さらには日々の業務フローに至るまで、広範囲にわたって大きな影響を及ぼします。ここでは、経理担当者が特に理解しておくべき実務上の具体的な影響を3つの側面から詳しく解説します。
財務諸表へのインパクト 貸借対照表と損益計算書
新基準の最も大きな影響は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースが原則として資産・負債計上(オンバランス化)される点です。これにより、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の見え方が大きく変わります。
特に、総資産が膨らむことで自己資本比率などの財務指標が悪化する可能性があり、金融機関からの借入や取引先との契約条件に影響を与えることも考えられます。どのような変化が起こるのか、具体的に見ていきましょう。
| 財務諸表 | 従来基準(オペレーティング・リース) | 新リース会計基準 |
|---|---|---|
| 貸借対照表(B/S) | 資産・負債ともに計上なし(オフバランス) | 資産に「使用権資産」、負債に「リース負債」を計上(オンバランス) |
| 損益計算書(P/L) | 支払リース料を費用として計上 | 「減価償却費」と「支払利息」をそれぞれ計上 |
この変更により、損益計算書では費用の性質が変わります。従来は支払リース料が販売費及び一般管理費として一定額計上されていましたが、新基準では資産の減価償却費(主に販売費及び一般管理費)と負債の支払利息(主に営業外費用)に分かれます。支払利息は返済初期ほど大きくなるため、リース期間の初期に費用が大きく計上される「費用前倒し」の効果が生まれます。一方で、支払利息や減価償却費はEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)の計算では除外されるため、経営指標としては改善して見える可能性があります。
会計処理の具体的な流れ 使用権資産とリース負債
それでは、実務における具体的な会計処理の流れを見ていきましょう。新基準では、借手はリース開始日に「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上します。
使用権資産の計上と減価償却
使用権資産は、リースによって対象となる資産を使用する権利を資産として計上するものです。その計上額は、基本的に以下の要素から構成されます。
- リース負債の当初測定額
- 前払リース料
- リース契約の締結や交渉で発生した付随費用
- (将来発生が見込まれる)原状回復費用
計上された使用権資産は、原則としてリース期間にわたって定額法などの合理的な方法で減価償却を行います。これにより、リース資産の使用による便益の消費を費用として認識していきます。
リース負債の計上と利息の計算
リース負債は、将来支払うべきリース料総額を、一定の割引率を用いて現在価値に割り引いて計算します。これは、将来の支払額と現在の価値が異なるという時間的価値を考慮するためです。
リース負債の計上額 = 将来のリース料総額の現在価値
リース期間中は、毎回のリース料支払いの都度、会計処理を行います。支払額は、まずリース負債に係る「支払利息」の計上に充てられ、残額が「リース負債」の元本返済に充当されます。この計算には利息法が用いられ、期首のリース負債残高に割引率を乗じて支払利息を算出します。この結果、支払利息は期間の経過とともに減少し、元本返済額が増加していくことになります。
管理業務の複雑化とシステム対応の必要性
新リース会計基準の適用は、経理部門の管理業務を大幅に複雑化させます。これまで契約書を保管し、支払いを管理するだけでよかったオペレーティング・リースについても、以下の対応が新たに必要となります。
- すべてのリース契約の網羅的な把握と管理
- 契約ごとのリース期間、リース料、割引率などの情報収集
- 使用権資産とリース負債の複雑な計算と計上
- リース期間中の金利計算や減価償却、残高管理
- 契約変更や中途解約時の再測定・修正処理
これらの業務をExcelなどのスプレッドシートで手作業管理することは、契約件数が増えるほど非現実的であり、ヒューマンエラーのリスクや業務負荷の増大に直結します。そのため、多くの企業にとって、新リース会計基準に対応した会計システムの導入や、既存システムの改修が不可欠となるでしょう。早期に自社の状況を把握し、システム対応の要否を検討することが求められます。
今すぐ始めるべき実務対応 新リース会計基準への5ステップ
新リース会計基準への対応は、単なる会計処理の変更に留まりません。全社的な契約管理体制の見直しや、業務フローの再構築を伴う一大プロジェクトです。どこから手をつければよいか分からないという担当者の方も多いでしょう。ここでは、実務対応を円滑に進めるための具体的な5つのステップを、順を追って詳しく解説します。
ステップ1 全てのリース契約の洗い出しと内容把握
最初のステップは、企業内に存在する全てのリース契約を網羅的に把握することです。これまで費用として処理していた契約の中に、新基準ではリースとして資産計上すべきものが隠れている可能性があります。経理部門だけでなく、総務、IT、営業、店舗運営など、各部署が独自に締結している契約も対象となるため、全社的な協力体制が不可欠です。
具体的には、以下の様な契約をリストアップし、契約内容を精査する必要があります。
- コピー機、複合機、PC、サーバー等のIT機器
- 社用車、トラック、フォークリフト等の車両
- 製造機械、工作機械等の設備
- オフィス、店舗、倉庫等の不動産賃貸借契約
- ソフトウェアのライセンス契約
契約書を収集したら、契約期間、リース料、支払スケジュール、更新オプションや解約オプションの有無といった重要情報を一覧表にまとめ、管理台帳を作成しましょう。この台帳が、後続のステップ全ての基礎となります。
ステップ2 新基準の適用対象となるリースの識別
次に、ステップ1で洗い出した契約の中から、新リース会計基準における「リース」の定義に該当するかどうかを一つひとつ識別していきます。新基準におけるリースの定義の核心は「資産の使用を指図する権利が、対価と交換に移転されるかどうか」です。
判定のポイントは以下の3つです。
- 識別された資産の存在:契約の対象となる資産が物理的に特定されているか。
- 経済的便益の享受:その資産の使用により生じる経済的便益の実質的にすべてを享受する権利を有しているか。
- 使用の指図:その資産の使用を指図する権利(いつ、どのように使用するかを決定する権利)を有しているか。
特に、ITアウトソーシング契約や倉庫の保管サービスなど、サービス提供の要素が含まれる契約は、リースに該当するかどうかの判断が難しい場合があります。契約の実態を注意深く分析し、判定結果とその根拠を文書として記録しておくことが、後の監査対応においても重要になります。
ステップ3 会計方針の決定と影響額の試算
リースに該当する契約を特定したら、自社の会計方針を決定します。新基準では、企業の判断で選択適用できる項目がいくつか設けられています。代表的なものは、短期リースや少額リースの特例を適用するかどうかです。これらの特例を適用すれば、一部のリースを資産計上せず、従来通り費用処理できるため、事務負担を軽減できます。
会計方針を固めた上で、財務諸表に与える影響額を試算します。具体的には、対象となるリース契約ごとに使用権資産とリース負債の金額を算出し、貸借対照表(B/S)がどの程度拡大するかを把握します。この試算は、自己資本比率や負債比率、ROA(総資産利益率)といった財務指標への影響を分析し、経営層や金融機関、株主などのステークホルダーへ事前に説明するための重要な資料となります。
ステップ4 業務フローの見直しと社内体制の構築
新リース会計基準の導入は、経理部門だけの問題ではありません。リース契約の締結から資産計上、減価償却、利息計算、契約内容の変更管理、そして最終的な契約終了処理まで、一連の業務フローを再設計する必要があります。
具体的には、以下のような体制構築とルール作りが求められます。
| 検討項目 | 具体的なアクション例 |
|---|---|
| 情報の一元管理 | 各部署で締結されたリース契約情報を、経理または専門部署に集約するルールを策定する。 |
| 部門間の連携 | 契約内容に変更(期間延長、解約など)があった場合に、速やかに関連部署へ情報共有するフローを確立する。 |
| 規程・マニュアル整備 | 新しい会計処理や業務フローに関する社内規程やマニュアルを作成し、全社に周知徹底する。 |
| 研修の実施 | 経理担当者だけでなく、契約に関わる全部門の従業員を対象とした研修を行い、新基準への理解を深める。 |
これらの見直しを通じて、正確かつ効率的なリース資産管理体制を構築することが、新基準へスムーズに対応するための鍵となります。
ステップ5 会計システムの改修または導入検討
リース契約の数が多くなると、使用権資産の減価償却やリース負債の利息計算といった複雑な計算を手作業や表計算ソフトで行うのは現実的ではありません。ミスが発生しやすく、管理工数も膨大になります。
そのため、会計システムの対応が不可欠です。選択肢としては、既存の会計システムを改修してリース管理機能を追加する方法と、専用のリース管理システムを新たに導入する方法が考えられます。自社のリース契約数や予算、既存システムとの連携性を考慮し、最適なソリューションを選択しましょう。システムの導入には時間がかかるため、早い段階から情報収集と検討を開始することが重要です。システムベンダーに相談し、自社の要件に合った提案を受けることをお勧めします。
適用が免除されるケースも 新リース会計基準の例外処理
新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約を使用権資産・リース負債として貸借対照表に計上(オンバランス)する必要があります。しかし、実務上の負担を考慮し、重要性の乏しい特定のリース契約については、この原則的な会計処理を適用しない簡便的な方法が認められています。これが「例外処理」です。この特例を適用することで、従来通りの賃貸借処理(オフバランス処理)を継続できます。ここでは、その代表的な2つのケースである「短期リース」と「少額リース」について詳しく解説します。
短期リースの特例
短期リースの特例は、リース期間がごく短いリース契約について、会計処理の負担を軽減するための規定です。この特例を適用するかどうかは、借手の会計方針として選択することができます。
この特例の対象となるのは、リース開始日においてリース期間が12ヶ月以内であるリース契約です。ただし、その契約に購入オプションが含まれている場合、そのオプションの行使が合理的に確実であると判断されるケースは対象外となりますので注意が必要です。
リース期間の判定には、解約不能期間だけでなく、借手が延長オプションまたは解約オプションを行使することが合理的に確実である期間も含まれます。例えば、契約上は1年契約でも、過去の実績や事業計画から更新することがほぼ確実な場合は、12ヶ月を超えるリースと判断される可能性があります。
この特例を選択した場合、使用権資産とリース負債を計上する必要はなく、支払うリース料をリース期間にわたって定額法などの合理的な方法で費用として計上します。これは、従来のオペレーティング・リースの会計処理と基本的に同じです。
少額リースの特例
少額リースの特例は、リース対象となる資産そのものの価値が小さい場合に適用できる簡便な処理です。これも短期リースと同様に、借手が会計方針として選択適用します。
この特例は、リースされている「原資産」が少額である場合に適用できます。国際的な会計基準であるIFRS第16号では、新品時の価額で5,000米ドル以下が一つの目安として示されています。日本の会計基準では明確な金額基準は設けられていませんが、多くの企業がこのIFRSの基準を参考に実務上の判断を行っています。
この判定は、個々のリース契約ごとではなく、原資産の種類ごとに行います。例えば、パソコン、タブレット端末、コピー機、オフィス家具などが典型的な対象資産です。自動車や不動産などは、通常、少額資産には該当しません。
少額リースの特例を適用した場合も、短期リースと同様にオンバランス処理は不要となり、支払リース料を費用として計上する賃貸借処理が認められます。
これらの例外処理を適用するかどうかは、企業の判断に委ねられています。以下の表で両者のポイントを整理しましたので、自社の状況と照らし合わせて会計方針を決定する際の参考にしてください。
| 項目 | 短期リースの特例 | 少額リースの特例 |
|---|---|---|
| 判定基準 | リース期間が12ヶ月以内か | 原資産が少額(新品時価額)か |
| 対象資産の例 | 一時的な利用のオフィス機器、イベント用什器など | パソコン、コピー機、事務用家具など |
| 会計処理 | 使用権資産・リース負債を計上せず、支払リース料を費用計上(賃貸借処理) | |
| 適用 | 借手の会計方針による選択適用 | |
これらの例外処理を適切に活用することで、新リース会計基準への対応における実務負担を大幅に軽減することが可能です。まずは自社が締結しているリース契約の中に、これらの特例の対象となるものがないかを確認することから始めましょう。
新リース会計基準に関するよくある質問 Q&A
新リース会計基準の導入にあたり、多くの経理担当者様が抱える疑問について、Q&A形式でわかりやすく解説します。特に質問の多い3つのポイントをまとめました。
オペレーティングリースはどうなるのか
結論から言うと、従来「オペレーティング・リース」としてオフバランス処理されていた契約も、新リース会計基準では原則として資産計上が必要になります。
これまでは、リース契約を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、後者は賃貸借処理として費用計上するだけで済みました。しかし、新基準ではこの区分が原則として撤廃され、借手の会計処理が一本化されます。
具体的には、オペレーティング・リース契約についても、借手は貸借対照表(B/S)に「使用権資産」と「リース負債」を計上しなければなりません。これにより、これまでB/Sに現れていなかったリース契約が可視化(オンバランス化)され、企業の財政状態をより正確に把握できるようになります。
ただし、後述する「短期リース」や「少額リース」の特例に該当する場合は、例外的に従来の賃貸借処理を継続することが認められています。
中小企業への影響は
現時点では、多くの中小企業に直ちに強制適用されるわけではありません。
現在公表されている新リース会計基準の公開草案では、主な適用対象は上場企業や会社法上の大会社とされています。多くの中小企業が会計処理の拠り所としている「中小企業の会計に関する指針」では、引き続き従来のリース会計基準(オペレーティング・リースのオフバランス処理を含む)の適用が認められています。
しかし、注意すべき点もあります。将来的には中小企業にも新基準の適用が拡大される可能性があります。また、金融機関が融資審査を行う際に、新基準を適用した場合の財務状況をシミュレーションし、実質的な負債としてリース契約を評価するケースが増えることも考えられます。そのため、中小企業であっても、自社がどのようなリース契約を抱えているかを把握し、新基準を適用した場合の財務インパクトを試算しておくなど、早期の準備が望ましいと言えるでしょう。
店舗賃貸借契約も対象か
はい、多くの場合、店舗などの不動産賃貸借契約も新リース会計基準の適用対象となります。
新基準では、契約が「リース」に該当するかどうかの判定が非常に重要になります。リースの定義は「原資産(この場合は店舗物件)を識別でき、その使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約」とされています。
店舗賃貸借契約は、特定の住所にある特定の区画を、一定期間排他的に使用する権利を得るものです。これはまさにリースの定義に合致するため、原則として「使用権資産」と「リース負債」を計上する必要があります。
一方で、契約の形態によっては「リース」に該当しない「サービス契約」と判断される場合もあります。両者の違いを理解しておくことが重要です。
| 契約の種類 | 特徴 | 会計処理 |
|---|---|---|
| リース契約(例:店舗賃貸借契約) | ・特定の資産(物件)が識別できる ・借手が実質的にその資産の使用を支配している(いつ、どのように使用するかを決定できる) |
原則として資産・負債計上(オンバランス) |
| サービス契約(例:コワーキングスペースのフリーアドレス席利用契約) | ・資産が特定されていない(どの席を使っても良い) ・貸手が実質的な支配権を持っている |
費用計上(オフバランス) |
自社の契約がどちらに該当するか不明な場合は、契約内容を詳細に確認し、必要に応じて会計専門家へ相談することをおすすめします。
まとめ
本記事では、新リース会計基準の概要から実務への影響、そして今すぐ始めるべき準備について網羅的に解説しました。新リース会計基準における最大の変更点は、これまで貸借対照表に計上されていなかったオペレーティングリースを含め、原則としてすべてのリースを資産(使用権資産)と負債(リース負債)として計上する「オンバランス化」が求められることです。
この変更は、企業の貸借対照表を大きく変動させ、自己資本比率などの財務指標に影響を与える可能性があります。また、社内に存在するすべてのリース契約を網羅的に把握・管理し、複雑な計算を行う必要が生じるため、経理部門の実務負担が増大することも避けられません。
新基準へ円滑に移行するためには、本記事で示した5つのステップ、すなわち「全リース契約の洗い出し」「新基準の適用対象の識別」「会計方針の決定と影響額の試算」「業務フローの見直し」「会計システムの対応検討」を計画的に進めることが極めて重要です。
短期リースや少額リースといった例外規定も存在しますが、まずは自社がどの程度のインパクトを受けるのかを早期に把握することが肝心です。新リース会計基準への対応は、経理部門だけの問題ではなく、全社的な課題として捉え、適用開始に向けて万全の準備を進めましょう。
